[84th exhibition/event of Fukase Memorial Visual Art Preservation Plan]
独立キュレーターの深瀬鋭一郎です。
アメリカ サンフランシスコで活動しているアブストラクト・ペインター鬼頭正人の小回顧展を行います。1987年から2007年までのアメリカでの発表作品を中心に、「メモランダム」「風からのメッセージ」から「ブラックフジヤマ」「花のある風景」シリーズへの移り変わりをお楽しみ下さい。
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■「鬼頭正人 MASANDO KITO 1987-2007」
2007.11.16(Fri.)-12.8(Sat.) 11:00~19:00 日曜休
入場無料
会場:COEXIST(〒107-0052 東京都港区赤坂 3-8-8-2F Tel&Fax 03-5572-6117)
東京メトロ赤坂見附 ベルビー赤坂出口より徒歩3分
http://coexist-art.com/
■11.16(Fri.) 17:00~19:00 オープニングパーティー
ワインと軽食を御用意しています。
■11.30(Fri.) 19:00~21:00 アーティスト・トーク
絵の制作を始め、1960年代のアメリカサンフランシスコでの展覧会や現地制作のさまざまなエピソードを語ります。深瀬鋭一郎と対談形式でトークイベントを行います。
■解説
「キトウ・ブラック」に寄す
鬼頭正人はかつて行動美術協会の画家であった。行動美術協会は、向井潤吉、小出卓二ら9名を創立会員として、1945年に創立された。1950年には建畠覚造らによって彫刻部も設立された。現在でこそ、意欲的な画家・彫刻家の多くは無所属で活動しているが、1960年代までは団体に所属して定期的に団体展に出品することが一般的であった。いわゆる団体展の全盛期である。
1937年に名古屋で生まれた鬼頭は、高等学校で絵画科に進学すると、イエロー・オカーやアンバー、ブラックで、モノクローム絵画を描き始めた。第二次世界大戦後の貧しかった日本にあって、あまり絵の具が買えなかったためだという。16歳で、早くも行動美術展に出展した。描いたのは、倉庫など、くすんだ色の町並みである。武蔵野美術学校に入学すると、19歳の若さで行動美術協会の奨励賞を受賞した。早速、村松画廊で個展を開催した。早熟の画家であった。
時は抽象画の時代、難波田龍起、須田剋太、杉全直らが活躍した頃である。鬼頭のくすんだ色合いのマチエールの強い純粋抽象は、こうした作家たちの絵画表面や構成に鑑みれば、より理解しやすいであろう。また、重厚な厚塗りの画面に日本の伝統文化を感じさせる抽象が描かれている点で、1950-60年代の菅井汲や今井俊満、堂本尚郎の作品も想起され、岡田謙三、猪熊弦一郎も含め、海外で活動した日本の画家に特有のモダンなジャポニズム(注)を体現しているともいえよう。
技法からみれば、鬼頭の黒い画面は、イエロー・オカーなどモノクロームの下塗りの上に、ブラックなどを重ねていくものである。ジェッソ下地の上に直接ブラックを塗る場合に比べると、一層くすんだ味わいの色面(カラー・フィールド)が現れる。鬼頭はそこに凹凸を形作る。色層の下にコラージュを用いる場合も、絵の具を表面から盛り上げる場合もある。そして、デコボコ(凹凸)のあるモノクロームができあがる。
これを試みに「キトウ・ブラック」と名づけよう。興味深いことに、鬼頭は富岡惣一郎との二人展を開催したことがある。富岡は、雪深い越後高田で生まれ、自ら開発した白油絵の具「トミオカ・ホワイト」を用い、平滑、清澄な輝きを秘めた独特の白色で、一貫して雪国の世界を描いた。くすんだ黒で抽象を描いた鬼頭と、清澄な白で具象を描いた富岡は、その用いた色彩と形象においては対照的だが、生まれ育った環境を感じさせる作風であるという点では共通である。
鬼頭は、1964年に渡米して、サンフランシスコのトライアングル・ギャラリーで個展を開催した。以後、ここを取り扱い画廊として、継続的に作品を発表している。他方、日本国内では、1982年に行動美術協会を退会し、翌年個展を開催したのを最後に、1998年までの15年間、ほとんど作品を発表しなかった。この点では、海外を中心に活動する日本人作家というカテゴリーにも属するといえるだろう。
鬼頭は、渡米後ポップアートの影響を受け、モノクロームの作品と平行して、カラフルな色使いで半具象のイメージを含む絵画を描いた。米国ではこの作風の絵画を発表し、日本では「朝日ジャーナル」の表紙絵としても利用していた。一方で、鬼頭が子供の頃から描き続け、行動美術展で発表してきたモノクロームは、行動美術協会退会とともに封印してしまった。そのことが鬼頭を苦しめたという。
1987年、50歳を迎えた鬼頭は、ようやくその苦悩をふり切った。「古臭く見えてもよいではないか。本当に自分が描きたいもの、モノクロームを描こう。」と開きなおった。そうしたら気分が楽になった。そこから第二の人生が始まった。今回、コエグジスト・ギャラリーで開催しているのは、その年以降の20年間(1987~2007年)に製作された、鬼頭の後半生の代表シリーズを総覧する小回顧展示である。
その冒頭にあたっては、まず、黒のモノクローム画面に凹凸がある「風紋」シリーズが描かれた。これは、トライアングル・ギャラリーでの初個展で発表された、初期の作例に近いものである。続いて1993年には、黒一色ではなく若干カラフルだが、引き続き抑制した色使いの色面に、風を思わせる不定形を配した「風からのメッセージ」シリーズが生まれた。このシリーズはトライアングル・ギャラリーによって作品集「MASANDO KITO PAINTINGS 1993-1994」に収められている。
さらに、最近の10年間は、モノクロームの背景の中に具体的形象が現れ、その形や色彩が次第に豊かになってきている。1998年から始まった、夜の富士山をテーマにした「ブラックフジヤマ」シリーズは、暗い夜空を思わせる黒地を背景に、幾何学形の黒いフジヤマが浮かび上がるものである。鬼頭の母が入院した病院に車で向かう途中に見た夜の富士山にインスピレーションを受け、その第一作を完成させたものである。
そして、キトウ・ブラックから花が咲いた。1999年から現在にかけては「花のある風景」シリーズを制作している。最初はフジヤマの噴煙であるかのように現れたイメージが、次第に花になったものである。カラフルで美しい花である。山は次第に小さくなり、ついには消失した。2006年からは、さらに布や箔のコラージュが加わっている。このシリーズでは画面から花が消え、黒地に布と箔のコラージュのみとなった作品もある。画面はなお、
変化・発展し続けている。
真の画家は、最後まで革新的精神を持ち続け、命尽きるまで変幻を繰り返し、新しい挑戦をし続けるものであるが、鬼頭もまた、このようにその例に漏れない。とすれば、鬼頭もまた、日米で意欲的に活動した、真の画家 "The painter" のひとりとして、回顧されるべき存在であろう。
深瀬鋭一郎(深瀬記念視覚芸術保存基金代表)
■鬼頭正人
[ 略歴 ]
1937 愛知県名古屋市生まれ
1954 行動美術展出品
1954 武蔵野美術学校西洋画科入学
1960 武蔵野美術学校西洋画科卒業
[ 個展 ]
1955 村松画廊 東京
1960 ホルベイン画廊 名古屋
1961 国際青年美術家展/桜画廊 名古屋
1965 トライアングル画廊 サンフランシスコ
壱番館画廊
1967 トライアングル画廊 サンフランシスコ
1969 トライアングル画廊 サンフランシスコ
1971 紀伊国屋画廊 東京 、 風月堂 東京
1978 ギャラリーイトウ
1979 ギャラリーイトウ
1982 泰屋画廊 、 檜画廊
1983 ギャラリーアートスペースコア
1987 トライアングル画廊 サンフランシスコ
1994 トライアングル画廊 サンフランシスコ
1998 1964年~1994年迄の作品展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
INAXギャラリー 東京
1999 ギャラリー青山 東京
2000 ギャラリー青山 東京
2001 ギャラリー青山 東京
2002 SPICA MUSEUM + Art Planning Room AOYAMA 東京
2004 トライアングル画廊 サンフランシスコ
2006 -1965年 トライアングル画廊における第一回目の個展より40周年記念の展覧会/トラ
イアングル画廊 サンフランシスコ
[ グループ展 ]
1954 行動美術展初出品
1955 行動美術展奨励賞
グループJUN展/三松画廊
1956 行動美術展会友推挙
1963 行動美術展会友賞
1964 渡米 現代カリフォルニアアーティスト展 サンタクルーズ
1965 行動美術展20周年記念賞会員推挙
1966 現代日本美術展
第7次日本見本市船さくら丸 カナダ、アメリカ
1969 現代アメリカ絵画彫刻展 イリノイ
1972-74 丘青展/紀伊国屋画廊 東京
1974 フランス美術賞展 パリ
1980 ARTKOBE'80/兵庫県民ギャラリー 神戸
1981 ジャパンアート展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
1982 林紀一郎企画・精神の幾何学展/東京都美術館 東京
行動美術協会退会
1993 9人の作家展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
1995 富岡惣一郎・鬼頭正人展/トライアングル画廊 サンフラスコ
1996 トライアングル画廊35周年記念展
1997 トライアングル画廊作家展
1998 8人の作家展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
2000 新作ギャラリー作家展/トライアングル画廊 サンフランシコ
2001 1961-2001年までの作品展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
2001年新作展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
2002 ジャパン・ショウ 9人の作家展/トライアングル画廊 サンフランシスコ
2003 ジャパン・ショウ/トライアングル画廊 サンフランシスコ
■トライアングル画廊(サンフランシスコ)ウェブサイト
http://www.triangle-sf.com/artists/kito/kito.html