2008年 03月 27日
有名なものは美しい |

「フクザワダスト」
入江早耶
紙幣、消しゴム
2006年
「有名なものは美しい」と言ったのはアンディ・ウォーホルだが、市場経済の下では人気があるほどニーズが増え、連れて価格は上がる。よって、例えば、美人投票、人気投票の上位者ほど高いギャラや高い価格がつく。このような世界においては、強制通用力(無制限の交換性)を持つがゆえに最も人気があり、ひいては、最も価値があるとされる流通財は、「通貨」に他ならない。すると、「通貨は美しい」ということになる。では、美しいのは、財としての通貨の表象であろうか、意匠であろうか、モチーフであろうか、肖像であろうか。おそらくは、それら総てであろう。
福沢諭吉、樋口一葉、野口英世、夏目漱石といった歴史上の実在の人物たちは、肖像として描かれ、通貨への信認を高め価値付けることを目的に、紙幣デザインの一部として採用されている。具体的には、人物の写真は、技師のニードルによってエッチング原版たる銅版に定着され、お札としてプリントされ、ついには「美」の一部となっていく。
入江沙耶は、この過程を逆回しして、美の表象たる肖像を再び立体化することを試みる。すなわち、いったん紙に定着させたインクやカーボンは、パン、ナイフ、消しゴムなどで除去されるが、ここでは、紙幣上の肖像版画を消しゴムで除去し、その消しかすを集めて立体像を作ることで、二次元肖像の再三次元化を実現している。こうして無理やり再三次元化されてしまった肖像たちは、美しくも、不本意に再出現させられてしまったペーソスに溢れ、やや滑稽にみえる。
なお、コインを損傷または鋳潰すことは、貨幣損傷等取締法により禁じられているが、紙幣については紙という弱い素材で出来ており、汚損したり破れたりし易いため、こうした損傷等取締法などの対象とはされていない。ただし、偽札を作ったり、偽札と知りながらそれを使用したり、模造したり、類似証券を発行した場合は、刑法等で罰せられる。また、本物の日本銀行券の額面を書き換えたり、切ったりして変造することも、同じように法律で罰せられるので、注意が必要である。
深瀬鋭一郎(深瀬記念視覚芸術保存基金代表)
by fmvapp
| 2008-03-27 22:36
| 評論・解説