2008年 03月 25日
会田誠「新宿城」 |

「新宿城」
会田誠
段ボール箱、その梱包用の紐(PPバンド)、ガムテープ、補強用に木材
高さ260cm
アイデア提供:大谷 えみ
1995年
バブル経済の最中に日本一の超高層ビルとして計画され、バベルの塔ならぬ「バブルの塔」と揶揄された東京都本庁舎は、1991年3月に新宿中央公園脇に竣工した。バブル経済崩壊後の不況が深刻化し、1994年頃からは、仕事にあぶれた日雇い建設労働者や失業者が新宿の地下通路等に流入して、路上生活者(ホームレス)が急増した。東京都本庁者へ向かう西口地下通路や新宿駅西口地下広場には、ダンボールで簡単な箱型の家を作り、最盛期には300名が生活していた。これらの家には、1995年8月から壁画が描かれ始め、いわゆる「ダンボールハウス絵画」が増殖していった。
当時、家賃さえ滞納しがちな貧乏作家で、作品の材料費に頭を悩ませていた会田にとって、制作費0円のダンボールハウスは刺激的な存在であった。あたかも社会問題を告発しているように見えるが、実際はナンセンスなユーモアを目的とするこの作品は、そこから発想された。会田は、この飛びぬけて立派なダンボールハウスを、新宿中央公園で制作し、西口地下通路に搬入・設置して、路上生活者が引っ越してくるのを待った。けれども、誰も住まないうちに、設置から4日目で、東京都清掃局の手によって撤去されてしまった。1995年12月のことである。
苦労の末に建てた我が家は、しばしば「城」に喩えられる。その意味でも、この作品は、会田がホームレスにシンパシーを感じて、自ら汗をかいて築いた「城」である。天守閣と二の丸、三の丸まで付いた、見かけは堅固な城砦である。かたわらに聳え立つ都庁に、いつ攻め落とされる(撤去される)かも知れないが、そうなったとしても想定の範囲内として、「冗談レベルをキープしたい」という会田が、「20世紀末の新宿西口」という時代と場所に建築した、現代史・文化史的な意味も有するサイトスペシフィックな(特定の場所や構造に帰属する性質の)作品である。
深瀬鋭一郎(深瀬記念視覚芸術保存基金代表)
参考資料
孤独な惑星―会田誠作品集 会田誠著 DANぼ 1999年5月
≒会田誠~無気力大陸~ 撮影・編集・監督:玉利祐助 製作・配給:ビー・ビー・ビー株式会社 2003年劇場公開作品 98分
MONUMENT FOR NOTHING 会田誠著 グラフィック社 2007年6月
新宿ダンボール絵画研究 新宿区ダンボール絵画研究会編 スワンプパブリケイション 2005年10月
新宿西口地下道段ボールハウス絵画集1995-1998 武盾一郎編 スワンプパブリケイション 2005年1月
段ボールハウスで見る夢 新宿ホームレス物語 中村智志著 草思社 1998年3月
ダンボールハウス 長嶋千聡著 ポプラ社 2005年9月
by fmvapp
| 2008-03-25 21:52
| 評論・解説