2013年 10月 05日
東谷隆司君の一周忌 |
東谷隆司君の命日が迫ってきました。
実は、彼が自死してから、僕は一度もそのことに触れていない。文章でも口頭でも。東谷君と一緒に仕事をしたことはなかったにせよ、美術界の中でも、実は僕は東谷君と相当親しい方だったからでしょう。当り前ではあるが何度か涙を流し、できるだけ彼の死のことを考えないようにしていたのです。今は、一年を経て、ようやく「触れること」ができる様になったのですが、まだ、涙が、流れてくるので、いま書くことを躊躇しています。自死してしまった佐藤陽一君が生前に困難にあったとき、東谷君と池内務さんと、一緒に佐藤君を励ましに行ったことは、決して忘れられません。皆、社会におもねらない、日本国内製の尖った現代美術を振興することに命をかけた戦友だったのです。
東谷君の死後1年たって、いくつか懺悔しなければなりません。
その一。
僕は彼の展示の才能をリスペクトするとともに、相当に嫉妬していました。我ながら恥ずかしい限りです。ただ、そのことは自分で恥じていたので、あまり考えないようにしていました。僕が生まれてから会った人の中で、彼の展示の才能は抜群のトップでした。元々美術家だった彼は作り手の意図や感情が良く理解できるし、展覧会を自分のインスタレーション作品のように構成して、自分の美術作品のように組み上げることができました。世田谷美術館でキュレーションした「時代の体温」展は語り草になっていますが、それ以外の展示でも、彼の担当したパートは凄いことでしたよ(もちろん全部成功というわけではないが)。これを「天才」と呼ばずして何を天才という。
その二。
一方で、東谷君はある種の病気を持っていて、プロジェクトを回していくのは不得意でした。深瀬記念視覚芸術保存基金事務所には、彼と同じ病気の人も過去在籍していたので、大変だろうなあと気の毒には思っていました。彼の展示の才能と僕の得意分野は、うまい具合に相互補完的だったので、僕と彼の双方を良く知る幾人かの美術界の先輩は、僕らの強みを組み合わせて企画を作らせようとしたことがあります。僕らも、お互いに強みと弱みは判りあっていたのですが、ただ、僕が新富町に事務所を持つと、彼も経堂に事務所を構えるといった具合に、競い合っている面もあったので、結局、彼も僕も一緒にプロジェクトをやろうとはしなかったわけです。
そんな中で、彼が釜山ビエンナーレを手がける前、2007-8年頃、真剣に「深瀬記念視覚芸術保存基金事務所に入って、深瀬さんと一緒に働きたい」と言ってくれました。僕は本当にとても嬉しかったのですが、恥ずかしながら、弊事務所は、ボランティアや、インターン、プロジェクト・ベース単体の有償委託で回しており、常勤雇用は基金の体力的に無理なのだという話をせざるを得ませんでした。彼も残念がっていました。僕も断腸の思いでした。これが実現していたら、相当に強いタッグ・チームだったのだろう、と今でも思います。
今回は、池内さんチームの山本現代(山本ゆうこ)さんが、椹木野衣さんのキュレーションで、「未来の体温 after AZUMAYA」という一周忌展を開催してくださるそうです。「絶対に行かなければ」と思いつつ、不覚の涙の洪水を覚悟しなければならないか、ということもあり、実は悩んでいます。しかしこのように懺悔ができて、今は心の痛みが軽くなり、涙も消えました。なんとかなるかも知れません。東谷君、一周忌にあたり、ご冥福をお祈ります。
深瀬鋭一郎 瞑目
////////////////////////////
未来の体温 after AZUMAYA
会期:2013年10月5日(土)~11月2日(土)
開廊時間:11:00~19:00 日月祝休廊
オープニングレセプション
2013年10月5日(土)18:00~20:00
キュレーター
椹木野衣
出品作家
赤城修司・高橋大輔・竹内公太・吉村大星、東谷隆司
パフォーマンス
2013年10月16日(水) 19:00開場・19:30開演、 入場料: 1,000円(1ドリンク付き)
白金アートコンプレックス3F 山本現代にて
山川冬樹による、東谷隆司の遺作「DIE IN」を用いた死者との「合奏/饗宴/共演」
DOMMUNE配信
2013年10月9日(水) 21:00〜
出演:椹木野衣・矢野優、山川冬樹
http://www.dommune.com/
協力
HARMAS GALLERY, SNOW Contemporary
この度、白金アートコンプレックス2F ARATANIURANOと3F山本現代におきまして、10月5日(土)から11月2日(土)まで、合同グループ展「未来の体温 after AZUMAYA」を開催する運びとなりました。
本展は、昨年鬼籍に入られたキュレーター東谷隆司氏を偲び、かねてから親交の深かった美術批評家の椹木野衣氏にキュレーションを依頼し、5名のアーティストを選出、構成した展覧会です。
東谷隆司氏は1999年に世田谷美術館にて「時代の体温」という日本の美術史に残る展覧会を企画しました。そして、横浜トリエンナーレ、東京オペラシティアートギャラリー、森美術館といった首都圏の現代美術の中心となる施設の立ち上げに関わった後に独立。「ガンダム 来たるべき未来のために」(サントリーミュージアム天保山ほか巡回、2005-2007年)などを手がけました。複数のキュレーターのうちの一人として参加した「釜山ビエンナーレ2008」では実力を認められ、2010年の同ビエンナーレでは総合コミッショナーを務めるなど国内外での活躍を期待されておりました。
また、キュレーターとしてだけでなく、執筆家・音楽家・アーティスト・パフォーマーでもあり、多彩な才能を持つ希有な存在でした。
東谷氏の見据えた未来を思い、今を生きている私たちはどのような未来を作っていくのか。時代の体温を感じながら表現を続けるアーティストたちを通じて、そのことを考えるきっかけとなりましたら幸いです。
山本現代 YAMAMOTO GENDAI
3-1-15-3F, Shirokane Minato-ku TOKYO 108-0072 Japan
T&F +81(0)3-6383-0626
l@yamamotogendai.org
http://yamamotogendai.org
実は、彼が自死してから、僕は一度もそのことに触れていない。文章でも口頭でも。東谷君と一緒に仕事をしたことはなかったにせよ、美術界の中でも、実は僕は東谷君と相当親しい方だったからでしょう。当り前ではあるが何度か涙を流し、できるだけ彼の死のことを考えないようにしていたのです。今は、一年を経て、ようやく「触れること」ができる様になったのですが、まだ、涙が、流れてくるので、いま書くことを躊躇しています。自死してしまった佐藤陽一君が生前に困難にあったとき、東谷君と池内務さんと、一緒に佐藤君を励ましに行ったことは、決して忘れられません。皆、社会におもねらない、日本国内製の尖った現代美術を振興することに命をかけた戦友だったのです。
東谷君の死後1年たって、いくつか懺悔しなければなりません。
その一。
僕は彼の展示の才能をリスペクトするとともに、相当に嫉妬していました。我ながら恥ずかしい限りです。ただ、そのことは自分で恥じていたので、あまり考えないようにしていました。僕が生まれてから会った人の中で、彼の展示の才能は抜群のトップでした。元々美術家だった彼は作り手の意図や感情が良く理解できるし、展覧会を自分のインスタレーション作品のように構成して、自分の美術作品のように組み上げることができました。世田谷美術館でキュレーションした「時代の体温」展は語り草になっていますが、それ以外の展示でも、彼の担当したパートは凄いことでしたよ(もちろん全部成功というわけではないが)。これを「天才」と呼ばずして何を天才という。
その二。
一方で、東谷君はある種の病気を持っていて、プロジェクトを回していくのは不得意でした。深瀬記念視覚芸術保存基金事務所には、彼と同じ病気の人も過去在籍していたので、大変だろうなあと気の毒には思っていました。彼の展示の才能と僕の得意分野は、うまい具合に相互補完的だったので、僕と彼の双方を良く知る幾人かの美術界の先輩は、僕らの強みを組み合わせて企画を作らせようとしたことがあります。僕らも、お互いに強みと弱みは判りあっていたのですが、ただ、僕が新富町に事務所を持つと、彼も経堂に事務所を構えるといった具合に、競い合っている面もあったので、結局、彼も僕も一緒にプロジェクトをやろうとはしなかったわけです。
そんな中で、彼が釜山ビエンナーレを手がける前、2007-8年頃、真剣に「深瀬記念視覚芸術保存基金事務所に入って、深瀬さんと一緒に働きたい」と言ってくれました。僕は本当にとても嬉しかったのですが、恥ずかしながら、弊事務所は、ボランティアや、インターン、プロジェクト・ベース単体の有償委託で回しており、常勤雇用は基金の体力的に無理なのだという話をせざるを得ませんでした。彼も残念がっていました。僕も断腸の思いでした。これが実現していたら、相当に強いタッグ・チームだったのだろう、と今でも思います。
今回は、池内さんチームの山本現代(山本ゆうこ)さんが、椹木野衣さんのキュレーションで、「未来の体温 after AZUMAYA」という一周忌展を開催してくださるそうです。「絶対に行かなければ」と思いつつ、不覚の涙の洪水を覚悟しなければならないか、ということもあり、実は悩んでいます。しかしこのように懺悔ができて、今は心の痛みが軽くなり、涙も消えました。なんとかなるかも知れません。東谷君、一周忌にあたり、ご冥福をお祈ります。
深瀬鋭一郎 瞑目
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未来の体温 after AZUMAYA
会期:2013年10月5日(土)~11月2日(土)
開廊時間:11:00~19:00 日月祝休廊
オープニングレセプション
2013年10月5日(土)18:00~20:00
キュレーター
椹木野衣
出品作家
赤城修司・高橋大輔・竹内公太・吉村大星、東谷隆司
パフォーマンス
2013年10月16日(水) 19:00開場・19:30開演、 入場料: 1,000円(1ドリンク付き)
白金アートコンプレックス3F 山本現代にて
山川冬樹による、東谷隆司の遺作「DIE IN」を用いた死者との「合奏/饗宴/共演」
DOMMUNE配信
2013年10月9日(水) 21:00〜
出演:椹木野衣・矢野優、山川冬樹
http://www.dommune.com/
協力
HARMAS GALLERY, SNOW Contemporary
この度、白金アートコンプレックス2F ARATANIURANOと3F山本現代におきまして、10月5日(土)から11月2日(土)まで、合同グループ展「未来の体温 after AZUMAYA」を開催する運びとなりました。
本展は、昨年鬼籍に入られたキュレーター東谷隆司氏を偲び、かねてから親交の深かった美術批評家の椹木野衣氏にキュレーションを依頼し、5名のアーティストを選出、構成した展覧会です。
東谷隆司氏は1999年に世田谷美術館にて「時代の体温」という日本の美術史に残る展覧会を企画しました。そして、横浜トリエンナーレ、東京オペラシティアートギャラリー、森美術館といった首都圏の現代美術の中心となる施設の立ち上げに関わった後に独立。「ガンダム 来たるべき未来のために」(サントリーミュージアム天保山ほか巡回、2005-2007年)などを手がけました。複数のキュレーターのうちの一人として参加した「釜山ビエンナーレ2008」では実力を認められ、2010年の同ビエンナーレでは総合コミッショナーを務めるなど国内外での活躍を期待されておりました。
また、キュレーターとしてだけでなく、執筆家・音楽家・アーティスト・パフォーマーでもあり、多彩な才能を持つ希有な存在でした。
東谷氏の見据えた未来を思い、今を生きている私たちはどのような未来を作っていくのか。時代の体温を感じながら表現を続けるアーティストたちを通じて、そのことを考えるきっかけとなりましたら幸いです。
山本現代 YAMAMOTO GENDAI
3-1-15-3F, Shirokane Minato-ku TOKYO 108-0072 Japan
T&F +81(0)3-6383-0626
l@yamamotogendai.org
http://yamamotogendai.org
by fmvapp
| 2013-10-05 00:15
| 日記