故吉田哲也君の幽霊の話 |
それまで僕は吉田君が2005年1月に心臓マヒで急死したことを知らなかった。亡くなった頃には報道もされず、メーリングリストも流れず、藍画廊の追悼展を知らなければ、亡くなったことを知らずにいることはあり得ることだった。ただ、いつのころから、吉田君に僕からのメールが届かなくなったことは認識していて、どうしたのだろうな、とは思っていた。
吉田君とは数回会ったきりだが、いつもベレー帽を被っていた気がする。ベレー帽を脱ぐと人懐っこい穏やかな顔が現れる。この人からどうしてこの厳しい作風が生まれるのだろうと思っていた。どこかのパーティで吉田君の作品の成り立ちについて説明してもらった時、非常に得心がいったことがあったが、何を聞いたのだったか今はすっかり忘れてしまった。
何か身の回りにおける立ち現れの話をしてたのだと思う。元木君の考えていることとそう遠くなかった気がする。いずれにせよ、吉田哲也とその作品は永遠に忘れてはならない。優れた作品だったし、良い男だった。吉田君が幽霊になって、元木君の展示に来てくれたのか、あるいは単なる偶然か真相はわからないが、天国の吉田君に「ありがとう」のひとことを伝えたい。