「百万円」の価値 |
「もし100万円を素材とした芸術作品があったなら果たしてそれはどれだけの価値があるのだろうか?」
あいだだいや
紙幣、樹脂、アクリル板
2000年
「もし100万円を素材とした芸術作品があったなら果たしてそれはどれだけの価値があるのだろうか?」 これは、あいだだいやが、本展覧会の展示作品を制作した際の問題意識であり、かつ作品題名そのものでもある。自身がアルバイトで貯めた100万円を、銀行で1万円札の新札100枚に交換し、それらを横5列、縦20段に配置して、縦2m、横1m、厚さ1cmのアクリル版で表裏両側から挟み込んだものだ。
単純に考えれば、原価法に基づけば「価値=素材価格+工賃+意匠代+流通マージン」である。時価法に基づけば「価値=市場の流通価格」である。
もっとも、この話は実はもっと込み入っている。現在使われている紙幣は、割高にも割安にも売買され得ないからである。よって、紙幣の同額「交換」を行うしかないが、若手作家の立体作品に素材価格相当額(100万円+アクリル版代)を支払おうとする者は少ないかもしれない。実際にあいだがネットオークションに出品したところ、落札価格は33万4千円であったという。
もうひとつ、この作品に特徴的なことは、一枚一枚のお札があたかも版画であるかの如く展示されていることである。
一般に「版画」は、芸術作品を制作する意図の下に、古典的印刷技法を利用して、作家自身、または作家の監修の下で職人が原版を制作して刷り上げ、作家がそれらの刷り上がり状態等をチェックしたうえでサインや限定番号を記したもの(入れない場合もある)である。現代では、1万部以上の多数が制作されることもある。オフセット印刷といった大量印刷に耐える技法が用いられることもある。
では、旧大蔵省印刷局の技官が芸術意図も持って、お札の原版を制作していたらどうであろうか。他の者がその技官の意を汲み取って、芸術作品の一部として発表したら、そこにはどのような効果が発生するのか。紙幣には、限定番号もあり、サインに代えた日本銀行総裁の印と発券局長の印も押してある。芸術意思を伴う場合には、これらは立派な版画ともいえるだろう。
深瀬鋭一郎(深瀬記念視覚芸術保存基金代表)